「助けて、サスケくん」
乾ききった入り口に宛がわれた男性器は熱せられた鉄のように熱く感じられた。
まるで焼きごてで罪の証を刻される魔女のようだと頭のどこかで冷淡な声が響く。
罰を受ける時が来たのだ、と冷淡な声は尚も続けた。
サクラの身体は氷水をかけられたかのように急速に冷え切っていく、寒い。
後ろ手に拘束されたサクラが足をばたつかせ、身体をずり上げ逃れようとするのを男はただニヤニヤと眺めているだけだ。
くのいちという鎧を剥がされ恐怖の臨界点が超えたサクラは最早ただの女でしかなかった。
男の手に腰を掴まれゆっくりと下げられていくのと同時に、悲鳴でも嗚咽でもない言葉にならない音がサクラの口から零れ出る。
圧し掛かる男の身体が更に重みを増したようにサクラが感じたのは一瞬だけだった。
少し離れたところでどさりと重みのある何かが落ちる音、それからおそらく縄の擦れる音がサクラの鼓膜を震わせる。
外気に晒されていた自身の剥き出しの足に何かがかけられたのが分かった。
恐る恐るサクラが目を開けると、そこには先ほど口にした名前の持ち主がいた。
「サスケくん」
「遅くなった」
サスケはサクラの身体をゆっくり引き起こすと彼女の手の縄をクナイで切り落とし、その両腕を前へとそろそろと戻してやる。
大きく見開かれた翠色の瞳はサスケに縛され転がされた男にくぎ付けとなったまま動かない。
男が呻き声を上げるとサクラの肩がびくりと震えた。
「殺さなかったの?」
サクラの瞳は瞬時に燃え上がり、サスケの腿のホルスターのクナイを抜き取ると男めがけて動き出す。
虚を突かれたサスケは、サスケが思っている以上に敏捷に動いたサクラを後ろから抱き留めるのがやっとだった。
「サクラ、よせ」
恐怖か興奮かその両方か、抱き留めた小さな背中は震えていた。
めちゃくちゃに暴れまわる華奢な両腕をサスケは自身のそれぞれの腕で掴んで抑え込む。
「どうして!邪魔しないで!殺させて」
喉の奥から振り絞って叫ぶサクラは歯の根も合わないほどに震えている。
サスケは更にきつく、腕の中の女を逃さないように力を込めた。
「大丈夫、大丈夫だ」
彼女の耳元で怖がらせないよう、安心させるよう極力静かに、穏やかに囁く。
「もうこれ以上、誰にも、お前を傷つけさせない」
離して、お願い、と弱々しい懇願に変わったその頭を柔らかく撫で続けるのに合わせて、少しずつ腕の中の震えは収まって来ていた。
「サクラ」
名前を呼ばれたのと同時に、女の身体からすとんと力抜けたのがサスケには分かった。
唯一固く握られたままで血色を失い青白くなった指をゆっくりと1本ずつ開いてクナイをそっと抜き取りホルスターに戻す。
「サクラ、もう大丈夫だ」
サスケがもう一度きつく抱き締めると、サクラの瞳から静かに涙が零れ始めた。
その涙が止まるまでサスケはずっと彼女の耳元でその名前を呼び続けた。
そうしてやがてしずかに朝が訪れた。
それは夢のようにうつくしいしずかな朝
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