男の欲望の契機は、考えもしない時に訪れる。
うちはサスケの場合、それは薄桃色の髪の合間から彼女の耳が覗いた瞬間だった。




スイッチ


「ひゃ」

 後ろからの突然の接触に、サクラは普段出さないような声をこぼした。
 今日は2人とも非番で、炎天下の空の下を出歩く気にもなれずにクーラーで冷やした涼しい居間にいる。
サクラはローテーブルにファッション誌を置いて床に直に座り、サスケはソファに横になりある紛争のルポルタージュを読んでいた。
耳を指先でなぞられてくすぐったい、サクラは本に飽きたサスケが戯れに触れてきたのだと思った。

「本に飽きちゃった?お茶でも淹れようか?」

 サスケからの接触にサクラの目じりはまるで溶けてしまったかのように下がる。
こういう行為をされると愛おしさが増して、サクラはサスケを子供みたいにとことん甘やかさせてしまいたくなる。
だが、ぴちゃり、と水音が直接鼓膜を震わせたことで、サクラの思考と動きは固まった。
耳を舐められている、サクラがそう気づいた時にはサスケの腕が後ろからやんわりと抱き寄せて、ソファに彼女をうつ伏せに寝かせていた。


「サ、サスケくん」

 サクラは戸惑いの声で男の名を呼ぶが、呼ばれた当人は構わずに続ける。
淡い桜色の髪の毛を前に流し、舌を耳から細いうなじへと移す。
サクラは身を捩らせて与えられる刺激から逃れようとするが、自分よりも大きな男に覆い被さられているせいでそれは叶わない。

 サスケは服の裾を捲り上げ、ブラジャーのホックを外し、彼女の背中を白日の下に晒した。
彼女の肌はもともと白いが、その背中は日ごろ太陽に当たることがまずないので、露出している腕や足に比べてさらに白い。
明るい光の中で初めて目にしたその場所は、宵闇の中で見るそれよりも一段と輪郭をはっきりとさせ、サスケの喉は思わず上下した。
深雪のような白い背中にぽつりと3つだけ小さなほくろが縦に等間隔に浮かんでいる。
彼女自身も知らないそれに上から順番に唇を落としていく。

「あ」

 サクラの反応が一際大きくなる。
まるで、サクラの悦ぶところはここだ、と知らせるようなその存在は、サスケだけが知っている。
その事実にサスケは愉悦の笑みを浮かべた。

 一番下のほくろを強く吸うと彼女の肌は僅かに上気する。
白い肌の皮下が桃色に染まるサクラの体。上品な色に染まるこの体が好きだ。
顔の角度を変え彼女のほっそりとした腰に口づけると彼女の体が跳ねる。
しなやかに跳ねた体とソファのその隙間に手を差し入れて、サスケはサクラを仰向けにした。


 翡翠色の瞳をかすかに潤ませてサクラはサスケを見上げる。
頬はばら色に染まり、僅かに開いた唇の間から覗く舌がサスケの情欲を更に高める。

「サスケくん、今、ここで、するの?」
「いやか?」
「だって明るいし、お布団じゃないし
はずかしいよ」

 サクラは胸のすぐ下まで捲り上がってしまったワンピースの裾を下げようとしたが、サスケの手がすかさずそれを阻み、彼女の手を抑えたまま逆方向に動かし、ブラジャーも一緒に首の辺りまで上げて止める。
露わになった胸の頂はすでに主張を始めていた。

「それがいいんだろうが」
「サスケくんのへんたい」

 サクラはささやかな抵抗を吐き出して両目を左腕で覆い隠す。
その仕草を継続の了承ととり、サスケは行為を再開した。
抑えつけているサクラの右手首にキスを落とし、右胸の先端を舌で刺激してさらに固くし、唇で咥え込む。
もう片方の乳房は右の掌ですっぽりとくるみ、ふれるかふれないか程度の力で優しく圧しつぶすとサクラは耐えかねたように吐息をこぼした。
その吐息を聞いたサスケは、さきほどのささやかな抵抗に対する意地悪を思いつき、右の尖りはそのまま舌で嬲り、左の乳房は掌全体でもどかしい接触を続ける。

「サ、サス、ケ、くん」

 サクラは吐息に男の名を乗せて訴えかける。

「なんだ?」

 舌の動きと口腔内の空気の振動で左の乳首にまた違う刺激を与えられ、サクラは体全体を大きく震わせた。

「や」
「言わないと分からないぞ」

 顔の位置はそのままでサクラの顔に視線を転じると、先ほどよりも口が割り開かれ、サスケの舌の動きに合わせて、は、は、と小刻みに息を漏らしている。

「ひ、だり、も…ひだりも、して…」

 サクラはまるでだだをこねる幼子のように左右に首を振り、その肌には羞恥の汗がじわりと滲む。
サクラの反応に満足したようでサスケの口角はサディスティックに歪んだ。

「サクラのへんたい」

 そう言うと、左に与えていたそれよりも強く彼女の右の赤い蕾を吸った。


 小ぶりだが弾力のある胸を充分に堪能した後、サスケの舌は更に下へと降りていく。
臍に口づけを落としたサスケがサクラのショーツに手をかけたその時。

「だめ」

その手を普段よりも熱くなっているサクラの手が制す。

「見ちゃだめ」

 上体を僅かに起こしたサクラの瞳には明らかに怯えの色が映っていた。
いくら体を重ねてきたとはいえ、明るい中での行為は今日が初めてだ。
自分の一番醜く深い部分を、今この場所で晒すのがサクラには耐えられなかった。
サクラの表情を一瞥したサスケは、ショーツにかけた手はそのままでサクラの内腿に思いきり吸いつく。

「サスケくん!」

 甲高い恐怖が滲んだ声に、サスケはぴたりと動きを止めて体を起こす。サクラの腿には赤い痕がはっきりと残っていた。
汗で貼り付いたシャツを脱ぎ捨てサクラの体にのしかかる。
真上からサクラの顔を見下ろすサスケに、サクラは安堵した。
が、彼の頭がそのまま下りてきてサクラの喉に咬みついたのでサクラの心拍数は再度上昇する。

「サスケくん!?」

 喉元から顔を上げたサスケは悪戯っぽく微笑んだ。


「分かった。でも、顔は隠すなよ」


 再び整った顔が下りてきてサクラの唇を貪るようにサスケの唇が重ねられた。



 重ねた唇はそのままに、サスケの手はサクラの体のラインをなぞるようにまさぐり下降していく。
左手は胸にとどまり、右手は更に下、先ほどサクラに制止されたショーツへとたどり着く。
同じように手をかけると、びくりと小さな体は震えたが、今度は素直にサクラの腰がゆるゆると少し上がったので、何の抵抗もなく下ろすことができた。
腿の付け根の先の叢を掻き分け、その先にたどり着くとサクラのそこはもう泉を湛えている。
花びらをなぞられたサクラは息苦しさのあまり、唇を離そうと顔を動かすが、サスケはそれを追いかけて彼女の吐息すら飲み込もうと更に口づけを深くする。

 サクラの唇の端からはどちらのものといえぬ唾液が零れ始めているが、それを拭うだけの余裕は互いに既になくなっていた。
サスケの右手がおもむろに蜜壺から離れて、ジッと短い音がする。くちり、とサスケ自身がサクラの入り口にあてがわれた。

 その感触にサクラが息を呑んだ瞬間、唇が離れサスケの真っ黒な瞳がサクラを覗き込む。
サクラは恥ずかしさのあまり自分の顔を覆おうとサスケの背に回していた手を浮かせた。

「顔は隠すなって言ったよな」

 サスケの言葉にサクラは固まってしまう。

「で、でも」

 相対する瞳の迫力に、サクラは思わず顔を逸らして瞳をぎゅっと閉じこんだ。
いつまでも行為に慣れない彼女、その可愛らしい仕草にサスケの左手が優しくサクラの頬を撫でる。

「サクラ、目開けて」

 恐る恐る上目使いで見上げるサクラの視線はサスケの背中にぞくりと快感を走り抜けさせる。
その瞬間、サスケの理性は焼き切れ、彼女の最奥を一直線に目指した。



 ひやりとした風の感触にサクラは目を覚ました。
窓の外は既に夜、細長い三日月の光が部屋の中を仄かに照らしている。
視線を少し転じると胸の上に真っ黒な髪の頭部が置かれていた。
その規則正しい呼吸音は彼もまた眠りの中にいることをサクラに知らせる。

 サクラは右手を動かし、サラリと冷たい髪の感触を楽しむように優しく撫でる。
しばらくそうしていると、僅かに身動ぎしてサスケも目を覚ました。

「今、何時だ?」

 頭を動かしてテレビボードの時計を確認する。

「12時だよ。
ね、サスケくん」

 名前を呼ばれてサスケは頭を起こしサクラと目線を交わす。

「お誕生日、おめでとう」

 背中にまわされた彼女の腕に優しく力が込められた。





サスケ、お誕生日おめでとう!

 サスケの動きがぎこちないのは、彼が下手だからじゃありません!作者が下手だからです!!
性行為の描写って本当に難しいですね…みなさん何であんなにセクシーな表現できるの?
難しくて難しくて7月初めから書き始めたのに21日にやっと完成、ぎりぎりまでちょこちょこお直ししてました。

 5月23日に上げた「今日は何の日?」がサクラちゃんバージョンで、今回はそれに対するサスケバージョンです。
それぞれがキスしている場所には意味があるので、良かったらお暇な時にでもググってみてください。


20140723

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