「あ、サスケくん、おかえりなさい」
木の葉病院のある個室、ベッドの上にサクラはいた。
「おい、サスケ。もっと早く帰って来いってばよ」
ベッドの脇に置いてある丸椅子に座り、くるくるとまわりながらナルトは口を尖らせて言う。
「いいのよ、初産は大体予定日より一週間ぐらい遅れるのが普通だから。
急がなくていいって言ったのは私よ」
ベッドの奥、窓側に揺り籠型のベビーベッドが置いてあり、風でゆらゆらと揺れている。
サスケはその中にいるであろうまだ見ぬ子供の姿を思い浮かべた。
おもむろにナルトが立ち上がる。
「帰るの?」
「そりゃあ初めての親子対面でむせび泣くサスケは見たいけどさ、親子水入らずを邪魔しちゃ悪いだろ」
ナルトは下忍の頃と変わらないいたずらっぽい笑みを浮かべ、「また今度呑もうな」と病室を後にした。
ベビーベッドに眠る子供はまるまるとしていて、そのピンクに染まった肌の色が、大人の体温よりも高いそれであることを教えている。
すやすやと眠るその子は、当然のことながら何もかもが小さかった。
「さっきおっぱいをあげたばかりだから寝ちゃってるんだけど、サスケくん抱っこしてみる?」
「俺がか?」
サスケは驚いてサクラを見たが、当のサクラはまっすぐにサスケを見て微笑んでいる。
「片手じゃ赤子を抱けないだろう」
「だいじょーぶ、私に任せなさーい」
サクラは手際よくサスケの外套を脱がせ、彼の掌に消毒用のアルコールジェルを塗る。
「腕をちょっとだけ浮かせて、輪っかを作るような感じにして」
そうそう、上手上手、と言いながら、サクラは自分の左腕とサスケの二の腕の辺りをくっつけ、そろそろと赤子の頭を移動させる。
サスケの左腕はないのだから、通常このままだと赤ん坊は落ちてしまう。
だが、その子供は安らかな寝息を立てたまま、サスケの腕の中に納まっていた。
赤ん坊の尻のあたりを、サクラの腕が支えて落ちないようにしていることをサスケは気づいた。
自然とサスケの腕の中で眠るその子を挟んで、サスケとサクラは向き合う形になっている。
「ね、こうすればサスケくんも抱っこできるでしょ」
わが子を愛おしそうに眺めるサクラの声が、優しくサスケの鼓膜を震わせた。
「サスケくんにも抱っこして欲しかったの。
人って漢字あるじゃない?お互いに支え合って成り立ってるってあれ。
今こうしてるみたいに、2人でこの子を支えて守っていこうね」
サクラの言葉の一音一音がサスケの身体の至るところを暖めていく。
赤ん坊の頬に雫が落ちて、サクラは自由が利く方の手でガーゼを掴み赤ん坊の頬を優しく拭き取る。
「ねえ、あなたのパパは泣き虫だね。
大きくなったら、初めてパパがあなたを抱っこした時のこと、必ず教えてあげるからね」
サクラはそう言うと、今度はサスケの頬にガーゼを当てる。
サスケはガーゼを持ったその手に優しく口づける。
「サクラ、俺に家族を作ってくれてありがとう」
ひと
原作最終話読後、勢いのまま書き上げた作品です。
新生児は片手で抱っこできるそうなのですがどうか作者の無知をご容赦くださいませ。
20141111