サクラが木の葉隠れの里に帰って来たのは、俺が里に戻ってから約三カ月後のことだった。
キャンプ地から首都までの移動は子供の足で1週間ぐらいの距離だったが、首都に着いた後は、内乱の爪痕で機能していなかった病院のバックアップを手伝って来たらしい。
キャンプ地の解体と同時に戻って来た俺はすぐに帰って来るだろうと思っていたから、火影からそのことを聞いた時には彼女の仕事熱心ぶりに思わず閉口した。



「お前はつくづく俺を待たせるのが好きらしいな」
「そんなつもりじゃなかったんだけど、つい放っておけなくて」

 彼女は以前も何度も足繁くここに来ていたが、それは俺が目の見えない間のことだったので、実際、家での姿を目にするのは今日が初めてだった。
両膝を行儀よく揃えて以前と同じ定位置に腰かけ、足下に置いた鞄の中から数冊の本を取り出しテーブルに並べる。

「あ、これ?今回休暇を3週間も貰えたから久しぶりに綺麗にしたの」

 見せびらかすようにテーブルの上で揃えて見せた彼女の爪は形を綺麗に整えられ、髪色と同じ薄い桜色に塗られていた。

「美容院でトリートメントもして貰って髪の毛もサラサラになったし、すっごく癒されたんだ」

 女は自分の為に時間をかけると精神が落ち着くとよく聞くが、サクラも満更ではないようだ。
以前は女のそういう行為に無意味さを感じていたが目の前の彼女を見ると、その考えを改め直した。


「サスケくん?本、どれがいい?」

 サクラはどうやらタイトルを読み終えていたらしい。当然表記は外国の横文字で俺には読めない。とりあえず右端の群青色の表紙を指差した。

「嵐が丘だね、分かった」

 彼女はその本を手に取ると腿の上に載せる。顔を下に下げるのにつられて髪が流れ落ち彼女の顔を隠してしまう。
どうやらそれが邪魔なようで耳に掛けると、彼女の横顔がまた現れた。長い睫毛が頬に影を落とす。
サクラは読み始めようと口を開いたが、しばらくそのままの状態で固まりやがて口を閉じた。

「どうした?」
「な、何でもないよ。じゃあ読むね」

とは言ったものの、先ほどと同じ動作を繰り返して今度は顔を真っ赤にしてサクラは俯いた。

「なんなんだ?さっきから」

 消え入るような小さな声でぽつりと漏らす。

「―――は、恥ずかしい」

 答えの意味が分からなくて俺は思わず首をかしげた。

「目つぶってくれないかな?見られてるって思うと恥ずかしくて」

 俺はサクラの体に触れるか触れないかの場所に座り直して横から彼女の顔を覗き込む。
びっくりしたサクラは開いた本で自分の顔を覆い隠した。

「ち、近過ぎるよ、サスケくん!」

 本で顔を隠してるので、その声はくぐもって聞こえる。
思わず面白くなってわざと顔を寄せて彼女の耳元でささやく。

「お前こんなことで恥ずかしがっててこれからどうするつもりなんだ?」

全身をびくりと震わせて背筋をピンと張り顔を上げる、俯く前よりも更に赤くなり、耳まで熱で染まっているのが分かる。面白い。

「こ、これからって?」

 視線を真正面の庭先に見据えたままサクラは俺に尋ねる。

「これから、はこれからだ。色々やることあるだろ?」
「い、いろいろ・・・・」
「そう、色々」

 これ以上は赤くならないみたいで今度は目を左右に泳がせ口をぱくぱくし始める。
何でここまで素直に反応しまくるんだ、どんどん拍車がかかる。

「お前、今変なこと考えてんだろ?
意外といやらし」

ばし


 俺の顔に本を押しつけたサクラはすっくと立ち上がった。

「わた、私、用事思い出したから帰る!」

 居間から出て行こうとするその姿はまるで機械仕掛けの人形のようにかくかくとしている。
 少しやり過ぎたみたいだ、これ以上してしまうと本当に機嫌を損ねかねない。
彼女が本当に帰ってしまわないようその背中に慌てて声をかける。

「誕生日、もうすぐだろ。
行きたいところとかないのか」

ぴた、と動きを止めるがこちらを振り向こうとはしない。
今の発言がその場を取り繕うような発言に捉えられても困る、俺はその背中に近寄り素直にあやまることにした。

「お前の反応見てるとつい面白くなってやり過ぎた、悪かった」

 彼女の正面に周り込むと上目使いで俺を睨み上げてきたが彼女が考えているような効果ははっきり言ってない。

「サスケくんのいじわる」


 サクラの両手を手に取り優しく握る。

「これからふたりで色んなこと沢山しような」

 俺のそれとは違って、小さくて柔らかくて冷たい、サクラの手は俺の手の中にすっぽりと隠れてしまった。

「これからよろしくお願いします」





ふたり

 私は二次創作を発表する度にTwitterでも通知させて貰ってるのですが、「今日は何の日?②」を上げた際に、Twitter上で仲良くしてくださってる、ねこまる坊や様(14年6/23現在の表記)から
『安室ちゃんの「CAN YOU CELEBRATE?」を連想した』という感想を寄せて下さいまして、その一言のお陰でひらめきまして、今回の作品を作ることが出来ました。
 私よりもかなり年下なのですが、色々と優しく教えて下さったり、教えて下さった後も気にかけてフォローして下さったり、
また今回のように感想を寄せて下さったりなど、本当に心の細やかな方で頭の下がる思いです。本当に感謝しております。
 
 インターネットは恐ろしいツールだ、などとよくメディアなどでは標榜してますが、どんなツールも使う人の心次第なんだと、この頃とみに思います。
 実際、私は現実世界では同じ二次創作の趣味を持つ友人はおりません。ですが、Twitterを通して沢山の方と知り合い、
また色んな考えや作品に触れられることで本当に楽しい毎日を過ごしております。

『自分がされたらいやなことは人にもしない』
これが最低限の鉄則だと思いますが、良識・マナーを持ってこれからもネットライフを楽しもうと今回のことで改めてそう思いました。




 
ちょっとまじめ過ぎたわ…すみません。話しは変わりまして今回の作品について。
今回のサスケはサスケじゃない、と作者自身が一番分かっています笑

 ただ、私のサスケに対する勝手なイメージなんですが、サクラに対して他の人とは違う何かしらの気持ちが自分の中にあると分かってはいても、
その正体が「好き」とか「特別な存在」とかって感情だと自覚するのって結構時間かかる、というか何かきっかけがないと気付かない。
別の作品の中で、サスケ自身が自己分析するシーンがあるのですが、そこにも同じようなこと書いてるんですよ、私。
 でも気付いた後は周りがドン引きするぐらいにその感情を素直におおっぴらに表現しそうだな~と。
その変化にサクラが逆について行けなそうな気もするんですけどね笑

 そんでもってサクラちゃんは無意識の行動でサスケを翻弄して、
逆にサスケは意識した行為でサクラちゃんを翻弄してそうなイメージがあります。
そんな2人の関係性が作者は好きです、っていう本当に作者の好みが如実に表れた本作となりました。

 今日は言葉が饒舌でダラダラと個人的思考を垂れ流しにしてすみません、最後までお付き合いくださってまことに感謝です!
これからもサスサクライフを楽しみたいと思いますので皆様よろしくお願いします。


20140623

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