自分の呼吸する音が耳触りでうるさい。
また同じ場面だ。何度も何度も、私はここに、この瞬間に連れ戻される。
音が反響する真っ暗な中を私はただひたすら走り続けている。
さっきから足の裏に石や砂利が刺さるけどそんなのにはかまっていられない。
急がないと。
早く、急いで、ここから離れないといけない。
暗闇から突然男の手が伸びて来て私の首を掴もうとする。
その手に気づいて避けたけれど、その腕は尚も逃がさまいと私の首から下がる華奢な鎖を掴んだ。
立ち止まるつもりなんてない、首に食い込んだ鎖が引き千切れる。
鎖を掴んだままの男の腕から笑い声が上がる。
明かりのない洞穴の中で嘲りを含んだ笑い声が反響する、
お前はけしてここから逃げられないのだと。
走って走ってそれでもまだ走り続けているのに、出口なんてどこにも見当たらない。
足がだんだんともつれて進むスピードが落ち始める。
足が急に重くなった、重たい。なんで。
見てはだめ、だめ。
見てしまったらまた動けなくなる。
何度も何度もそれを見ているのに、見てしまったらどうなるか分かっているのに、
それでも私はおそるおそる視線を下へと移した。
小さな干からびた手。
それを視認した瞬間、無数の腕が私の身体の至るところを掴んで地面へと引き倒した。
同じ夢をもう何度見ただろう。何度も何度も。
私はこの夢から、あの昏い夜から解放される日は来ないのだ。