「サクラが肩を切られたのが救いだったな」

 赤丸に乗ったキバを先頭に、ナルト、サスケ、ヒナタが夜の森の中を続く。

「ごめんなさい、白眼でもチャクラが検知できなくて」

 ヒナタが申し訳なさそうに声を上げる。

「ヒナタが謝ることじゃねえってばよ。
誰のチャクラも検知できないってことは結界が張ってあるってことだし」
「僅かな出血だったから敵は痕跡の手掛かりにならないって油断したみてえだけど、赤丸の鼻は優秀だからな」

 キバが赤丸の頭を優しく撫でてやると、赤丸は嬉しそうに目を細めた。
 夜の森の中を暫く進んで行くと、赤丸が止まり地面の1箇所に鼻先を当て懸命に匂い、それからクウンと悲しげに鼻を鳴らす。
赤丸が示した一点は1センチほど、丸く黒く濡れており、それがサクラの血であろうことをナルト、サスケ、ヒナタは察した。

「ここで途切れているのか?」

 サスケがキバに尋ねる。

「そうだけどな」

 キバが少し先の大木の方を見やる。近づいて確認するとその根元にはぽっかりと人ひとりが入れるほどの穴が開いていた。
垂直に開いた穴を見下ろすと穴の底の部分が小さく見えているがどうやら奥に横へと広がっているのを確認できる。

「ここからすげえ蟲の匂いが立ってる」

 大木の周囲をぐるりと見回っていたナルトとヒナタが札を片手に戻って来た。

「簡単だけど新しい結界が張られてたから多分ここだと思う」

 ヒナタが穴を覗き込むようにして身を屈めて白眼を作動させる。

「確認できるチャクラは3つ、だいぶ広く枝分かれした空間になっているみたいでそれぞれが別々の場所にいる。
サクラさんのチャクラは感じられないです」
「ってことはまだサクラちゃんは気絶してんのか」
「いや、閉じ込められてる場所に更に結界を張られている可能性もある」

 サスケは少し考え込むと口を開いた。

「一つずつ潰していくよりは三方に手分けした方が早い。
それぞれが敵に接触して口を割らせてサクラの居場所を聞き助け出す」

 サスケの提案に他の3人は頷いて穴の中へと順に降り始めた。





それは夢のようにうつくしいしずかな朝





 視界一面が桃色に染まっている。
その桃色の正体が自分の髪の毛だとサクラが気づくのに時間はかからなかった。

 髪の毛を顔から払い除けようと手を動かそうとしたが動かない。
自分の手の位置がどこにあるのかさえサクラには分からず、ゆるゆると動かすと背面の腰の辺りで振動が伝わる。
手の感覚に集中するとどうやら印が結べないように甲と甲を合わせて後ろ手に拘束されているようだと悟る。
甲を擦り合わせるように上下に動かして自分の手を拘束しているそれがワイヤーロープであることを確かめる。
無理に外そうと動かしてもいたずらに自分を傷つけるだけだ、不自由な両手の処理は後回しにすることにした。
 身体の左半分で冷たい土の感触を感じて、地べたに寝転がされているのだとサクラは分かった。
左肩に出来た浅い切り傷は既に乾き始めており、傷の表面には細かい砂利が付いている。
手の自由が利かない為、頭を軽く振って顔にかかった髪の毛を振り払う。
振った動作に連動して後頭部にずきずきと痛みが走る。

 そうだ、あの男に殴られたんだ。

 徐々に意識が途切れる前の出来事が思い起こされてサクラの心中には急激な焦りと恐怖が湧き出て来た。

 そうだ、朱砂はどうなってるの?

 動悸が一気に激しくなる。身体をゆるゆるとうつ伏せに倒そうとすると左下腹部の辺りで丸い違和感が主張した。
その存在が確認されて、早鐘のように鳴っていたサクラの心臓は少しずつ落ち着き始めた。
呼吸を整え動悸が落ち着くのを待って、サクラは朱砂の容器にチャクラをゆっくりと流し込む。
 チャクラが容器をすっぽりと包んだのを確認すると、ようやく乾いた唇から安堵の息が零れた。
どうやら朱砂の容器は今のところ無事なようだ。
心音が正常に刻み始め、次は全身にチャクラを巡らせ始める。
外傷を負った後頭部と左肩にじんわりと熱が集中しているのが感じられて、ゆるやかに傷が癒えてゆく。
 今度は仰向けに転がるようにして動き、腰のポーチが奪われていることを確認する。
周囲を見回しても自分の装備は見当たらない。ベストも腿に装着していたホルスターも全てない。
代わりに自分の置かれている状況がサクラには分かって来た。


 狭い洞穴だ。長身の男が背を屈めることなく立てるぐらいの高さで緩やかな丸いドーム状の形になっている。
ゴツゴツとした岩肌の壁は人の手が加わったものではなく、どうやら自然にできたもののようだ。
その岩肌の、ちょうどサクラが転がされている場所から一番離れたところに粗末な木の扉がついている。
 岩と岩の隙間から月の青白い光が漏れ差しており、地底深い場所ではないことが察しられた。
まだ月が出ているのなら、拉致されたあの時から時間はそんなに経ってないはずだ。

 武器もない、さて、どうしたものか、と考えを巡らせようとしたその時、地面から一定間隔で振動が伝って来る。
サクラが足音だと認識した瞬間、木の扉がギシギシと軋んだ音を上げながら開かれた。






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